今季総括06


最終回。
今季のペナントレースが終わった直後、西武黄金時代の監督・森晶将氏がNumberのインタビューに答えた。テーマは、彼の教え子が率いるチーム、すなわち渡辺久信率いる西武と、秋山幸二率いるソフトバンクについてだった。
その中で森氏は秋山について次のように語った。
「秋山は寡黙に過ぎる。」


森時代の西武は、石毛や渡辺、工藤といった「新人類」と呼ばれた選手が個性をあらわにしつつも、勝ち続けた強さが在る。広岡監督以来の管理野球とは一見合わなそうな選手を抱えながらもそのスタイルを堅持できたのは、森氏がよく言われるように、選手との対話を重視した事が大きいように感じる。
監督が自分のやりたい野球をできる時、そこに必ず在るのは「対話」だ。王ホークスも、強さを見せたのは根元氏の「ラーメン屋のせがれ」発言が飛び出し、選手と監督の距離がぐっと縮まった99年以降である。
コミュニケーション能力は、対マスコミという点にもはっきり現れる。王氏は善きにつけ悪しきにつけマスコミによく喋った。欝陶しい記者もいただろうが、それでもマスコミとの対話を欠かさなかった。選手は意外にマスコミ発の情報も気にするのが分かっていたからこそ、発言によって、自分の考えをより正しく伝えようとしていたのだろう。
一方、秋山監督はどうか。秋山語録を見る限り、2つの事に気がついた。

1.一部の選手にだけ馴れ馴れしい
なぜか一部の選手にだけあだ名を会見でも使う。松中:信彦、川崎:ムネ、松田:マッチ、本多:ポン、など。一方なぜか、一部の選手にはよそよそしく「〜君」と呼ぶ。それ自体は構わないが、監督は全選手に公平な存在でなければならないはずだ。あだ名を使う背景には、親しさという要素もないとは言い切れない。


2.語彙の少なさ
西スポの「秋山語録」を見れば分かるように、秋山監督は口数が少ない。例えば、KOされた先発投手に対して「まだまだだね」としか語らない事があった。これでは投手を庇おうとしたのか、突き放そうとしたのかわからない。


マスコミに何でも話す事が良いとは限らないのは勿論承知している。ただ私が懸念するのは、選手との意思疎通もその程度のレベルで行われているのではないか、という事だ。毎回同じ失敗を繰り返す若手を見ていると、そんな気がしてならない。思い返してみれば、彼は「背中で引っ張る」タイプの選手だった。現役の頃はそれでも意思疎通は十分図れたのかもしれない。ただ、それは彼がグラウンドという「戦場」に共に立っていたからであり、ベンチから指示を送る今とは選手との距離が決定的に違うのだ。その事を理解する必要があるだろう。

最後に

今季のホークスは、「王カラー」の問題点を洗い出し「秋山カラー」を模索することで終わってしまった。戦術の合理化。若手選手の起用。どれを取っても中途半端に終わった戦いぶりに、彼らの「迷い」が垣間見える。その中でも最下位からAクラスに復帰できたのは、フロントも含めたチームの総合力がまだまだ衰えては居ないことを象徴している。それは秋山にとっても幸せなことであろう。
しかし現在のホークスは、チームの将来設計にとって重要な時期に入っている。松中や杉内といった03年の優勝を知っている主力選手が、揃って元気な状態で居られる最後の時期に来ているからだ。彼らが健在な内に、松田・大隣に代表される若手勢力が、更にいえば岩崎を筆頭とする高卒選手が真の主力へと脱皮を図ることが出来るのか。もし出来なければ、暗黒時代の到来を覚悟しなくてはならない。それだけに、伸び悩む若手への指導も起用法も、徹底して改善していかねばならない。
そのためにも来季の秋山監督には、自分の発言の持つ重さを自覚してチーム内の意思疎通をしっかり図れるようにする。そして、若手起用と合理化。この2つの要素を軸にした「秋山カラー」を確立する。特に後者は難しいことではあるが、どちらも秋山ホークスが長期間続くためには優勝することよりも余程重要なことである以上、この2つのテーマの実現を願って止まない。


延々1ヶ月続いた企画。お読みいただき、ありがとうございました。